
修了率と満足度だけではAI研修の効果を十分に説明できないという認識は、すでにHRD部門で広く共有されています。そして次の四半期には、従業員の能力の変化を示す指標を報告しよう、という決意につながります。
しかし、その次へ進もうとすると、一つの問いが浮かびます。 そもそもAI能力とは、何を測るものなのでしょうか?
最大の問題は、AI能力という言葉の意味が広すぎることです。AI講座を何度も受け、概念を理解していても、実務ではほぼ使わない人がいます。一方、毎日ChatGPTで報告書の草案を作りながら、その結果がなぜ出たかを説明できない人もいます。この2人のAI能力を、同じ尺度で比較するのは難しいでしょう。
AI能力を単一の能力ではなく、複数の領域に分けて捉える考え方は、すでに世界標準に近づいています。 OECDが整理したAI Literacy Frameworkは、AI能力を認知・対話・倫理などの複数次元から重層的に定義し、 World Economic Forumの Future of Jobs Report 2025 も、AI関連の主要スキルを単一項目ではなく複数のまとまりに分類しています。どこから考えても、結論は同じです。 AI能力は、一つの項目では測れません。
では、何を、どう分けて考えればよいのでしょうか。この記事では、 「深さ」と「広さ」の2軸で、AI能力の構造を整理します。
深さは、一人がAIをどのレベルまで活用できるか。広さは、自社がどの項目でAI能力を定義するかです。この2軸を定めて初めて、「どう測るか」という次の問いに進めます。
2社が同じAI能力診断ツールを導入したとします。一方は「従業員がChatGPTをどのレベルまで使えるか」、もう一方は「マーケティング・財務・R&Dのどの職種で、AI能力の差が大きいか」を知りたいと考えていました。同じツールが両社を満足させる可能性は高くありません。測りたい項目自体が異なるためです。
この違いを生む基準は、2つあります。
一つ目は、 深さの定義です。従業員に、どのレベルまでAIを活用してほしいかを定めます。概念を知る、ツールを使う、実務に適用する。そのどこまで測定するかを、先に決める必要があります。
二つ目は、 広さの定義です。AI能力は、一項目で測れる単一の能力ではありません。AIの理解、出力の確認、業務への適用など、複数の項目で構成されます。そのうち、自社がどこまで測定するかを定める必要があります。
この2つに合意しないまま診断ツールを比較しても、自社が求める答えにはたどり着きにくいでしょう。ツールの設計自体が、深さと広さの組み合わせで異なるからです。次の2節で、それぞれの軸を確認します。
同じChatGPT入門講座を修了した2人を考えましょう。一人は、プロンプトの仕組み、AIが幻覚を起こす理由、入力すると危険な情報を明確に説明できます。しかし報告書は、今も最初から最後まで自分で書きます。もう一人は毎日ChatGPTで草案を作りますが、成果物の事実誤認を見逃しがちです。2人のAI能力は同じ位置にはなく、異なる位置にあるのです。
違いは、AIをどのレベルまで活用できるかです。それを測るには、3段階に分けると明確になります。

一つ目は、 理解する段階です。AIとは何か、どう機能し、どんなリスクがあり、どのツールがどの作業に合うかを認識する段階です。選択式クイズや記述式回答で、比較的測定しやすく、市販の診断ツールの多くは、この段階にとどまります。
二つ目は、 使用する段階です。AIツールを実際に操作し、プロンプトを設計して結果を理解します。この段階からは、選択問題だけでは測定が難しくなります。実際にツールを使うシミュレーションや、所定の場面でプロンプトを作る評価が必要です。
三つ目は、 適用する段階です。AIを自分の業務に組み込み、成果物を作り、正確性を批判的に検証し、結果に責任を持つ段階です。実際の成果物、日頃の業務に基づくシミュレーション、同僚評価などで測定します。難易度は最も高いものの、組織が知りたい情報の多くは、この段階にあります。
自社にどのレベルのAI能力が必要かは、社内で合意する必要があります。ただ、本格的にAIを活用し始めると、多くの組織は最終的に「実務に適用する」段階まで測りたいと考えます。
問題は、適用段階まで診断する難しさです。 選択式クイズだけでは測れず、実務での活用方法やシミュレーションも確認する必要があります。測定範囲を定義すれば、次は、その段階まで測れるソリューションの検討へ自然に進めます。
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深さが一項目をどのレベルまで測るかを決めるのに対し、広さは診断に含める項目を決めます。AI能力は一項目では測れず、複数のスキルが集まって、一人のAI能力を構成するためです。

正確に診断するには、次のようなスキルを確認する必要があります。
- AI技術と動作原理の理解
- AI成果物のリスク・バイアス・機密データの認識
- 適切なAIツールを選ぶ判断
- 業務にAIをどう適用するかの企画
- AIツールの操作と、プロンプトによる対話
- AI成果物の批判的検証と、結果への責任
各項目は独立しています。技術や動作原理に強くても、実際の検証スキルは弱いかもしれません。スキルごとに細分化してこそ、個人の強みと弱みを正しく把握できます。
これらのうち、自社がどこまで診断に含めるかが「広さ」です。全項目を測ることも、自社の優先順位に応じて特定項目の比重を高めることもできます。
測る項目を定めたら、対象者を決めます。全従業員に共通適用するか、職種別に重みを変えるかを定めます。多くの組織は、全員に共通して必要なAI能力から測ります。職務への依存度が高い企業なら、職種別の重み付けも可能です。ただし、いずれも項目を先に定め、適用範囲が続きます。
項目が決まらないまま、 診断ソリューションを比較すると、自社が知りたい項目を測れないものを選ぶおそれがあります。 深さと同様に、広さも先に定義すべき理由です。
従業員はどのレベルまでAIを活用すべきか。その活用能力を、どの項目に分けて確認するか。 深さと広さの基準を定めれば、「何を測るか」への答えが完成します。
測定項目が明確になると、これまで答えにくかった次の問いに答えられます。
測定項目なしには答えられません。満足度と修了率の限界は、まさにこれらの問いに答えられない点にありました。
次の記事では、 TeltaがAI能力を実際にどう測るかを確認します。
監修者のコメント
AI研修の効果に答えるには、研修前に「何が変わるべきか」を定義する必要があります。深さと広さを決めずに測っても点数は出ますが、次の行動、例えば研修の重点領域は決めにくいでしょう。診断結果の用途から定めれば、測定項目は自然に絞られます。
— チョン・ソヨン博士 · Telta代表取締役
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